
6.22012
こんにちは。週末いかがお過ごしでしょうか。
本日は、今から10年余り前、1999年に発生した著名な事件、「東芝クレーマー事件」に付随して、企業告発ページについての是否、及び企業の対応リスクマネジメント等について、綴ってみたいと思います。
■ 「東芝クレーマー事件」 とは ■
この事件について、軽く経緯を触れておきます。
東芝のビデオデッキを購入した、福岡のとある会社員が、そのビデオデッキに不具合があったため、何度かサービス担当、及び東芝本社等に故障対応等を求めました(確かに、かなり執拗ではあったようです)。
度重なる会社員からの要求に対し、東芝の渉外管理室の担当男性が、
「 おたくみたいなのは、クレーマーっちゅーの!」
という発言をしてしまいました。
これに対し会社員は、東芝を告発するwebサイトを開設したうえ、東芝の担当者の対応発言につき、その音声をアップロードするなどをし、当該webサイトは相当な閲覧者を集めたようです。
東芝側も、自社のウェブサイトで反論等を行いましたが、1999年7月に、裁判所に対し、会社員が開設するウェブサイト記載の一部削除を求める仮処分を申し立てました。
しかしながら、このような東芝の対応について、社会的非難が集まり、東芝はこの仮処分の申立てを早々に取り下げざるを得ず、結局、東芝副社長が会社員へ謝罪等を行う等の対応で何とか収束した、というのが大まかな経緯と聞いております。
確かに、東芝側に問題があったことも確かですが、その法的対応について社会的批判が集まるという構造もいかがなものか、というのが私の率直な感想です(私自身、企業側として業務を行うなかで、告発サイト等に名前を出されたことがございます)。
■ 告発サイトを開設すること自体の違法性について ■
インターネットが普及する以前は、一般的に企業側に情報等を発信する力がある反面、個人は発信力において弱い立場におかれておりました。しかしながらインターネットの普及により、個人の「表現の自由」(憲法第21条)は圧倒的に拡張したものといえます。
しかしながら、個人は事実に反することなどを無責任に発信する「表現の自由」までが認められているわけではありません。
表現の目的、表現の内容、表現の方法などによっては、刑法上、名誉毀損罪(刑法第230条、第230条の2)、侮辱罪(同法第231条)、業務妨害罪、信用毀損罪(ともに同法第233条)が成立するおそれがあるのと同時に、民事上、企業から不法行為に基づく損害賠償請求を受ける可能性もあります。
具体的には、問題となっている表現について
1)「事実の公共性」=表現内容が公共の利害に関する事実であること。
2)「目的の公益性」=もっぱら公益を図る目的で表現行為を行っていること。
3)「事実の証明」=表現した事実内容が真実であることが証明されること、あるいは相当合理的な資料や根拠に基づいて、真実と信じて表現活動を行ったこと
の要件を満たしていれば、当該表現は名誉毀損行為に該当しないと判断されることになります。この点、社会的にその事業活動が影響を及ぼす大企業の事案については、公共性が高いと評価される傾向にあると言えるでしょう(消費者保護の観点からも)。
その反面、企業に圧力を加えて何らかの利益供与を受けようともくろみ、いたずらに世論を煽ったり、事実が真実であるか否かに無頓着な態度で、あるいは虚偽や歪められた事実に基づいて企業を誹謗中傷する表現を行っていたりするような場合には、表現の自由として保障される範疇を逸脱して違法な表現活動となるわけです。
なお、当該個人が企業と訴訟中であり、自らのウェブサイトなどに訴訟で自らが提出した書面のみならず、相手方から提出された書面を掲載することが、著作権侵害になるか否かも懸念される方も多いかと存じますが、
著作権法40条1項で、「・・・・裁判手続・・・・・における公開の陳述は、同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。」
との規定がありますので、通常、著作権侵害は問題とならないと思われます。
■ 企業側はどのような対応が望ましいか ■
告発サイト等のターゲットになった企業において、どのような対応が望ましいかについては、個々の事例(告発サイトの主張が事実であるか否か、や世間の注目度、企業の信用に及ぼす影響等)につき、総合的に検討したうえでの判断となります。
まずは早急に社内で、クレームや告発内容を収集・検討し、事実関係や告発者の動機・意図の把握に努めたうえで、
・ 告発内容事実が実際に存在する場合
誠意をもって当該問題の解決を優先として先方との自主交渉に入り、その解決への道筋のなかで告発記事の掲載の取り下げを図っていくことになるでしょう。この際、「とにかく黙っていて欲しい」等の姿勢が前面にでることは、概して解決への道を阻むことになります。
さらに、告発記事への世間の関心が高まっている場合には、企業側も自社のホームページ上などにおいて、一般消費者等に対し、十分な説明責任を果たしていく必要がある場合も出てくるでしょう。
・ 告発内容が事実に反し、あるいは誹謗・中傷の度合いが著しい場合
この場合、私見ではありますが、もっとも行ってはならないのは、「この件だけ秘密裡に金銭で解決してしまい、表現者を黙らせよう。」という対応です。
「2ちゃんねる」等のサイトが存在する現在、企業側に何の落ち度もない、まさに ”クレーマー”や、”お小遣い稼ぎ”に対しこのような対応を行うと、同種事件が次々と発生することもあり得ます(現に、このような事実、そして助長する出版物が出されたこともありました)。
このような場合、企業側は毅然と、公に法的処分(仮処分・訴訟等)を選択し、事実無根であることを明らかにすべき場面も十分ありえると言ってよいでしょう。
以上、ご参考になれば幸いです♪
注) 一部、弊職が以前寄稿した、「企業のリスクマネジメントテキスト」(工学研究社)の弊職担当部分の原稿を入れております。
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