
6.32012
こんばんは。週末も間もなく終わりですが、いかがお過ごしでしょうか。
本日は、会社の従業員(労働者)が、担当している仕事でミスなどを犯してしまい、第三者に損害を与えてしまったため、会社がその第三者に対して損害賠償をするなどをして、会社に損害が発生した場合に、会社はその損害の全額を従業員に請求できるか、という問題について綴ってみたいと思います。
(と、記しましても、分かりづらいので、設例を掲げたいと思います。)
■ 事例 - いわゆる最高裁昭和51.7.8付判決、「茨石事件」を例として
石油の運送・販売を営んでいたA企業に勤務する、B従業員は、A企業所有・管理ののタンクローリーを運転していたところ、過失(落ち度、ミス)により、前方を走っていたC会社所有の業務車両に追突してしまい、その車両を損壊してしまいました。
この交通事故は、B従業員が業務中に起こした事故であり、A企業はB従業員の「使用者」として、民法上、直接C会社に損害賠償をする責任がありますので(民法715条。使用者責任といいます)、C会社に車両の修理費用その他を損害賠償金として支払わなければなりませんでした。
その後A企業は、B従業員に対して、C会社に支払った損害賠償費用を弁償するように求めましたが、B従業員は全額を支払わなくてはならないのでしょうか。
■ 判断の方向性・回答
設例のように、B従業員が、自分の仕事上の過失(落ち度・ミス)で、勤務先のA企業に損害を与えてしまった場合、民法等の法律に基づいて、A企業に損害賠償責任を負う、弁償をしなければなりません。
しかしながら、A企業は通常、B従業員などの従業員を稼働させることによって利益を上げ、あるいは事業展開しています。ところが、いざB従業員が仕事でミスをしてA企業に損失を与えた(C会社に損害賠償を支払わせた)からといって、それを全額B従業員に負担させるというのは、A企業にとって「虫のいい話」といわざるをえないでしょう。
そこで、法律解釈によって、A企業はその利益によって損害を填補し、B従業員が負担するのが公平と認められる範囲内の金額のみ、B従業員に弁償責任ができる(報償責任)という考え方が取られています。
では、実際に、「公平の範囲」はどのような要素から判断するのでしょうか。
設例の模範となった、茨石事件では、
「・・・・使用者(注:勤務先会社A)は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者(注:従業員B)の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者(注:勤務先会社A)の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者(注:従業員B)に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができる。」
と判示しています。
茨石事件では、A企業はC会社に、損害賠償額として40万円強を支払ったのですが、そのうち4分の1程度のみについて、従業員Bに弁償請求することのみを認めました。
■ お給料から天引きすることの是否について
労働基準法上、「賃金はその全額を支払わなければならない」とされているので、A企業が従業員Bに弁償させる権利を持っているからといって、一方的に賃金の一部と相殺(弁償した扱いとして減額すること)することは許されません。
ただ、A企業が従業員Bに賃金を全額支払った上で、別途、弁償を請求することは可能です。
以上、ご参考になりましたら幸いです♪
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