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【 交通事故・リスクマネジメント 】 社用車が盗難された上,人身事故を起こしてしまいました・・・ 

  週末日曜日,こんにちは♪
 関東地方も,例年より早く,とうとう梅雨入りです。鬱陶しい日々が続きますが,季節の変わり目,お体ご自愛下さいませ。

ところで,企業勤務で,特に営業職でいらっしゃる方々,お得意先回りのために社用車を用いて移動されている方も多いのではないでしょうか。

 ところが,そのような日常のなかで,ふとした隙に社用車が盗難されたうえ,その窃盗犯が盗んだ社用車で人身事故を起こしたら・・・という事態は残念ながら,あり得ないとは言えません(現に,現在まで複数の判例があります・・・)。本日は,これをテーマに取り上げたいと思います。
事例 ) A会社の従業員が,A社所有の自動車を運転していましたが,携帯電話が鳴ったため,公道上にエンジンキーをつけたまま半ドアー状態で駐車し,電話を受けていたところ、その社用車が盗難にあい、その直後に人身事故が発生してしまいました。
 後日,A会社は,交通事故の被害者から損害賠償請求を受けたのですが,A会社はこれに応じなければならないのでしょうか?
(最高裁判決・昭57.4.2,の事例をベースにしました。)

 A会社は,社用車を盗難され,ただでさえ損害が発生しているのに,さらに,窃盗犯人が起こした事故の責任まで負わされるのは理不尽なことと感じるかと存じます。
 しかし,自動車の所有者として,交通事故の賠償責任を負わされる場合も少なくないのです。
⇒ 判例の傾向では,上記事例についてはA会社の損害賠償責任を認めています。

 自動車を保有する方であればよくご存じの,いわゆる自賠責保険 (=自動車および原動機付自転車を使用する際、全ての運転者への加入が義務づけられている損害保険)の支払の前提条件を定めている法律として,自賠法(自動車損害賠償保障法)があります。
 この法律は,そもそも民法の規定によるだけでは、交通事故による被害者の救済は不十分であり,被害者の保護を最低限度補償すべきとの見地から,自動車保有者が賠償責任を免れるためには,保有者自らが責任が無いことを立証しなければならない(事実上かなり難しい)という趣旨になっております。


 そして,自賠法第3条は,次のように規定しています。

「 自己のために自動車を運行の用に供する者(= 「運行供用者」 と呼ばれています は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。」

 したがって,自動車保有者であるA会社が,上の条文の,「運行供用者」に当たるかどうか,が,社用車窃盗犯の起こした交通事故の責任をも負わなくてはならないか,の分岐点になるのです。( 「運行供用者」にあたる ⇒ 責任あり )
 そして,対立はあるところですが,「運行供用者」については,概ね,
「 自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者 」 ( 運行支配 & 運行利益 )
を指すと考えられています。

では裁判所は,具体的にどのような事例について,自動車保有者に,自らが起こしたわけではない交通事故(人身事故)の損害賠償責任を認めているのか,あるいは責任を否定しているのか,簡単にご紹介申し上げます。

・ 息子が,父親所有の自動車を無断運転した際に発生させた交通事故につき、自動車とキーの保管状況等から,息子がいつでも容易に自動車を運転使用しうる状況にあったとして,父親の賠償責任を肯定した事例。(大阪高判昭59.6.26判時1127号108頁)

・ 会社の従業員が,A社所有の自動車を,公道上にエンジンキーをつけたまま半ドアー状態で駐車していたところ,盗難にあい,その直後に窃盗犯が事故を発生させた場合に,A社の賠償責任を肯定した事例。(最高判昭57.4.2交民15巻2号295頁)

・ 国道沿いで,周囲にフェンスや壁もなく,誰もが車両を容易に発見でき,自由に出入りできる民宿の駐車場に,夜間キーを付けたままドアロックもしないで駐車していた車両が盗まれて事故を起こした場合に,車両の保有者に賠償責任を認めた事例。(大阪地判平13.1.19交民34巻1号31頁)

・ レンタカーの利用者が車両返還の意思がありながら,使用期間満了時から約55時間経過後に事故を発生させたが,レンタカー会社では乗り逃げ被害にあったとの処理をしておらず,利用者にも返還の意思があった場合に,レンタカー会社に賠償責任を認めた事例。(和歌山地判平6.12.20 交民27巻6号1858頁・・・ただ,使用期間満了時から55時間も経過した交通事故であることを考えると,限界事例だというのが私見です)

・ 客観的に第三者の自由な立入を禁止する構造,管理状況にあるタクシー会社の車庫に,ドアに鍵をかけず,エンジンキーを差し込んだまま駐車中のタクシー自動車が窃取され事故を起こした場合に,タクシー会社の賠償責任を否定した事例。(最高判昭48.12.20交民21巻9号2512頁)

・ 当日返還する予定でレンタカーを借り受けた者が,さらにそれを無断転貸し,返還予定日の25日後に無断転貸を受けた者が事故を起こした場合に,レンタカー会社の賠償責任を否定した事例。(大阪地判昭62.5.29判タ660号203頁)

・ 逐条解説・自動車損害賠償保障法(国交省自動車交通局保障課監修、株式会社ぎょうせい)
・ 交通事故損害賠償基礎研修講座2009 (財)日弁連交通事故相談センター東京支部「自動車保険の基礎」(第二東京弁護士会・弁護士國貞美和氏)
・ 平成22年度日本交通法学会定期総会「運行供用者責任に関する現代的諸問題-運行供用者概念の規範化とその限界」 

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