
8.232014
おはようございます。
只今我が国では,「イスラム国家の樹立を一方的に宣言した過激派組織」(NHKの表現),よく「イスラム国」と呼ばれる組織が,日本人を拘束したニュースが連日報道されております。
本コラムでは,拘束された人や,本件事案への政府対応等の是非を問う意図はありませんので,あくまで純粋に,国際法で構築されてきた,「国家成立」の概念について述べたいと思います。
国際法上の国家(独立した主権国家)が新たに成立したと認められるために,従来より4つの要件が必要と考えられてきました。すなわち,
① 国民となる定住者がいること(恒久的住民の存在)
② 一定の固有の領土を要すること
③ 統治組織が存在すること
④ 他国と条約の締結等の外交的能力をもつこと
です。この4要件を規定した,1933年の通称・モンテヴイデオ条約は従来からのこの立場を改めて確認したものと解されています。
しかし,現代国際法の考え方においては,これら4要件のみをもって国際法上の国家(独立した主権国家)が新たに成立したとすることは不十分であり,別途,
” ⑤ 重大な国際法違反を伴わない樹立でなければならない”(適法性)
との要件を満たす必要がある,とされています。
これは,人民の自決権を圧殺した政権による国家樹立,他国領土への武力侵攻を伴う国家樹立が歴史的に繰り返され(例えば南ローデシア樹立・北キプロス=トルコ共和国樹立など),これらは重大な違法性を内包し(特に,前掲の人民自決権の圧殺,武力侵攻は今日では強行法規違反-いかなる逸脱も許されない規範として,また,後に成立する同一の性質を有する一般国際法の規範によってのみ変更することのできる規範として,国により構成されている国際社会全体が受け入れ,かつ,認める規範。ウィーン条約法条約-であるとされている)国家成立と認めるべきではないという評価判断が形成されたことによるものです。
それでは,よく耳にする ”国家承認” とは何でしょうか。
有効な国家承認とは,前掲の国家成立の5要件を新国家が充足していることを前提として,既存の国家が,それを国際法の主体たる国家(=独立した主権国家)とみなす旨の意思表示を行うことをいいます。
一般的にその意思表示は,新国家に対する通告や宣言で明示的に行われる場合のほか,正式な外交関係を開設したり,国際機構,とくに国際連合への加盟への賛同を行ったりすることで黙示的に承認したと評価される場合があります。
これら「国家承認」は,既存の国家の一方的行為として,各国の個別判断に基づいて行われるため,実際の国際社会においては,各既存国家の政治的利益や配慮等が入り込み,とある樹立国家につき国家承認を行った国,行わない国に分かれることが珍しくありません(例・イスラエル,北朝鮮等々)。
以上,個別の争点を除き,ごく浅く綴りましたが,今問題となっている,別称「イスラム国」(2014年6月29日に一方的に国家樹立を宣言)なる組織は,国際法上の国家たるには,国家成立の要件①乃至④を個別具体的に見るまでもなく,⑤を充足せず,国際法上の国家たりえない,ということになりましょう。
(各掲載写真は,筆者がバンクーバーで撮影したものです。
本文と関連はありません。)
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