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【IT,名誉毀損】 ITにおいて名誉毀損を受けた場合の対抗言論の法理

こんばんは。
今夜は,ITにおける名誉毀損についての判例蓄積などを紹介しつつ綴りたいと思います。sDSCF3196
皆様,ウェブサイトの掲示板に,わりと気軽に名誉毀損に該当するような書き込みをしてしまったりしていませんか。
下記の通り,是非慎重になさって下さい。

事案としてよくあるのが,パソコン通信サービス上の発言により,名誉毀損及び侮辱罪の被害を受けたとして,プロバイダに損害賠償の請求と,発信者情報の開示を求める訴訟のなかで,「対抗言論の原理」(反論)がプロバイダ側などから主張されることが複数回ありました。

「対抗言論の原理」とは,パソコン通信・掲示板等において,被害者が加害者に対し自由に発言し,必要十分な反論ができているのであれば,名誉毀損等の違法性は阻却されて然るべきである,という議論です。

sDSCF3288またこの点,昭和31年7月20日最高裁判決は,「インターネットの電子掲示板における匿名の発言であっても,不正を告発する体制を有している場での発言である以上,その読者において発言が全て根拠のないものと認識するものではなく,幾分かの事実をも含まれていると理解するのが通常であろう。したがって,その発言によりその対象とされた者の社会的評価が低下させられる危険が生ずるというべきである。」と判時しています。

そこで近年の判例を見ると,○=被害者勝訴 ×=被害者敗訴

× 平成13年8月27日東京地裁: 最高裁の法理に加えて,「言論による侵害に対しては,言論で対抗するというのが表現の自由(憲法23条1項)の基本原理であるから,被害者が,加害者に対し十分な反論を行い,これが効をを奏した場合には,被害者の社会的評価は低下していないものと評価することは可能であることから,このような場合には,一部の表現を殊更取りだして表現者に対し不法行為責任を認めることは,表現の自由を萎縮させるおそれがあり,相当とはいえない。」,との評価基準を出したうえで,被害者が抽出した各表現は,パソコン通信に参加している一般の読者を基準として,被害者は十分反論を行っており社会的評価が低下する可能性は消滅したと考えられる,として被害者の主張を棄却しました。

○ 平成14年12月25日東京高裁: 最高裁の法理に加えて,「言論に対しては言論をもって対処することにより解決を図ることが望ましいことは言うまでないが,それは対等に言論を交わせる者同士であるという前提があって初めて言えることであ(る)。」,との評価基準を出したうえで,
・ 被控訴人(被害者)側は本件掲示板を利用したことが全くない
・ 被控訴人(被害者)側は自己に対する批判を誘発する言動をしたものではない。
等を理由として,被害者の主張を認めました。

○ 平成19年5月31日東京地裁: 「原告(被害者)が,本件のホームページ(加害者記載)の記載内容に対する反論をインターネット上の自らのホームページ上に記載したとしても,本件ホームページを閲覧した者が,必ずしも,原告(被害者)の反論を掲載したホームページを閲覧するとは限らないのであり,インターネット上で反論を行いうることをもって,名誉毀損の不法行為の成立に影響を与えるものとはいえず,上記被告の主張は採用することはできない。」

○ 平成20年10月01日東京地裁:
「 なるほど,言論による侵害に対しては,言論で対抗することが,表現の自由の基本原理であり,名誉を毀損された被害者が,加害者に対し,十分に反論することにより名誉回復を図れることが可能な議論の場が存在し,かつその反論が効を奏した場合には,被害者の社会的地位が低下したとはいえない。」
「 被害者が,加害者の名誉毀損発言を誘発する発言をし,加害者がこれに対応して被害者の名誉を毀損する発言をした場合も,被害者の発言内容,加害者による発言がされるに至った経緯,及び加害者の発言内容等を勘案して,加害者の発言が,対抗言論として許される範囲内のものである限り,違法性は阻却される。」
と述べたうえで,

・ インターネット上の掲示板における投稿は,相対する当事者の論争と異なり,当事者間の言論と言論のとの間に時間的な隔たりが介在する余地があるところ,閲覧する目的,頻度及び回数は,掲示板の閲覧者にとって様々であるから,閲覧者が一方の言論に対する他方の反論(対抗言論)を確認することは限らない。
→ と,対抗言論の法理の成立については極めて厳しい判断をしています。

皆様,インターネットの掲示板に書き込みをする際,十分熟慮なさって下さいませ。

 

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