
8.262014
近年,就労方法が多様化する中で,企業と雇用と被雇用の関係にあるのか否か(個人請負型就労者・雇用と自営の中間的就業者)曖昧な就労形態が出現し,問題となっています。
すなわち,企業との雇用関係にある労働者(=職業の有無を問わず,事業又は事業所に使用される者で,賃金を支払われる者。労働基準法9条。なお労働契約法の労働者概念もこれに含まれると解される)は,労働法諸法(労働基準法,労働契約法等)による保護全般を受けうるのに対し,個人請負型就労者は,これらの部分的な適用を受けるに過ぎず保護が不十分となるおそれがあるからです。
そしてこの「労働者」に該当するか否かの判断は,事業に「使用」されていると評価できるか否か,そして補完的に,報酬・対価がどのように支払われているか,がメルクマールとなります。
この点,昭和60年の労働基準法研究会報告,「労働基準法の”労働者”の判断基準において」(本サイト図書館に収録)では,”使用・従属性の有無”の判断要素につき,次のように整理し,総合的に判断すべきとしています。(◎,○,△は判断の際の重要性)
(1) ◎ 「指揮監督下の労働」であるか否か。
・ 業務の依頼や指示等に対する承諾・拒否の自由の有無
・ 業務遂行上の指揮・監督の有無
・ 勤務場所・時間に対する拘束の有無
・ 労務の代替性(他の者に代われる)の有無
(2) ○ 「報酬に労務対価性」があるか否か。
・ 労働の結果による多少・変動の幅の大小の有無(幅が小さければ従属性高)
・ 欠勤した場合の応分の報酬の控除の有無(控除があれば従属性高)
・ 残業手当の有無(あれば従属性高)
(3) △ その他要素
・ 就業者の事業者性の有無(機械・器具の所有・負担関係,報酬額)
・ 専属性の程度
・ 採用の選考過程,報酬の給与所得としての源泉徴収の有無,服務規程の有無,退職金制度の有無等
この後最高裁は,2件の主たる判例を出しています。
(1) 最高裁第一小法廷平成8年11月28日 いわゆる旭紙業事件
自己所有のトラックを持ち込み,会社の指示に従って製品等の輸送に従事していた就労者に労災保険の適用があるか否かにつき,労働基準法の労働者性を否定
・ 運転手の運送業務に対し,会社の業務の遂行に関する指示は原則として運送物品,運送先,納入時刻に限定されていた。
・ 勤務時間につき,一般従業員に比して遙かに緩やかであった。
・ 報酬は,トラックの積載量と運行距離によって出来高払いとなっていた。
・ トラックの購入代金,ガソリン代,高速料金等も運転手が負担していた,等。
(2) 最高裁第二小法廷平成17年6月3日 いわゆる関西医科大学研修医事件
過労死認定を受けた研修医の未払賃金を巡り,遺族が最低賃金法(労働基準法)との差額を求めた件につき,労働基準法の労働者性を肯定
・ 病院開設者の定めた時間,及び場所で就労していた。
・ 指導医の指示に従って医療行為に従事していた。
そして現状,これらの指標は近年急増した個人請負型就労者(雇用と自営の中間的就業者)の労働基準法・労働契約法等上の「労働者」性の判断においても総合的に考慮される傾向にあります。
ただし,個人請負型就労者(雇用と自営の中間的就業者)がある事案において,労働基準法上の「労働者」とは認められない場合であっても,殊に特定の相手方事業主への継続的な労務提供によって経済的な依存が認められ,経済的に従属しているような場合には,労働者と同様の保護が必要な場面があるとして,通常使用者と労働者との間に適用される安全配慮義務につき,個人請負型就労者と相手方との間にも拡大適用している事案も認められているのが現状です。
付記) 挿入写真は筆者がイスタンブールで撮影したものです。
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