
8.312014
音楽などのエンターテイメントビジネスでも,インターネットビジネス等々,様々な場面で著作権譲渡であったり,著作権利用許諾が行われたりすることが想定されます。
その際,いわゆる著作権のほか,著作者人格権の取り扱いが問題となります。
今回は,著作者人格権について簡単にまとめてみます。
著作権は,特許権等の他の知的財産権とは異なり,何らの申請手続をなさずして,著作物が創作された時点で,その著作物を創作した人に,
・ 著作権
・ 著作者人格権
の双方が自動的に成立します。
このうち,「著作権」は,財産的権利として,他の様々な一般的権利と同様に,他人に自由に譲渡することができます。
ちなみに,「著作権」とは,複製権,上演権及び演奏権,上映権,公衆送信権,口述権,展示権,頒布権,譲渡権,貸与権,翻訳・翻案権,二次的著作物の利用権をその具体的内容としています(著作権法21条~28条)。
しかし,他方,著作者人格権は,これを譲渡することも,放棄することもできません。
ここで著作者人格権とは,「公表権」,「氏名表示権」,「同一性保持権」の3つの権利の総称ですが,その具体的内容については後述させて頂きます。
ただ,この3つの権利の名称からも推測できるとおり,これは著作権を離れて一般的に問題となる名誉権,プライバシー権等の人格の著作権版,とも言えるものであって,著作者人格権はまさに著作者の人格的利益を保護するものです。名誉権,プライバシー権を他人に譲渡したりすることができないこととパラレルに捉えることができましょう。
またそもそも,著作権法が保護対象とする「著作物」とは,① 思想又は感情を ② 創作的に ③ 表現したもので ④ 文芸,学術,美術,又は音楽の範囲に属するもの,に限ると規定されておりますが(著作権法2条1項1号),まさにこのように創作された著作物は,その著作者の思想や感情といった人格に深く根付いており,著作者人格権が他人に譲渡したり放棄することができず,著作者本人に一身専属的に帰属することも然りと言えましょう。
◆ 著作者人格権の内容 : 著作者に一身専属的に帰属する権利
① 公表権(18条) : 自己の著作物をそもそも公衆に提供・提示(公表)するかどうか自体を決定すること,及び,公表の時期や公表の方法(書籍か,新聞か等々)を決定すること。
② 氏名公表権(19条) : 自己の著作物を公衆に提供・提示(公表)する際に,その実名,もしくは変名(ペンネームなど)を著作者名として表示するか,あるいは著作者名を表示しないことを決定すること。
③ 同一性保持権(20条) : 自己の著作物の内容と題号の同一性を保持,すなわち,著作者の意に反した作品の改変を受けないこと。
◆ 著作権譲渡において生じうること
以上述べたとおり,著作権は財産的権利として著作者から他人に譲渡することができますが(譲渡を受けた者は著作権者,となる),著作者人格権は,その一身専属的性質から著作者のもとに残ったままになります。
したがって,原則,著作権の譲渡が行われ,著作権者(著作権を譲り受けた者)と著作者(創作者)とが別人となっている場合,ある著作物について,新たに著作権者から当該著作物の利用許諾などを得て,さらに著作物の内容についても改変を考えている方は,当該著作物について,著作者(創作者)の著作者人格権を侵害することになり得ますから,著作権者と,著作者双方の同意・承諾を受けなければならないことになります。
なお,多くの現場で著作権譲渡が行われる場合,著作者人格権が法律上,著作者に分属することが避けられないため,権利錯綜を防ぎ著作権者が自由に著作物を利用することを目的として,著作者人格権の不行使特約,すなわち
(著作権者) は,(著作権者) に対して著作者人格権を行使しない
といった条文を挿入し,リスク回避を図ることが,現場レベルでは多く行われています。
実はこの著作者人格権の不行使特約の有効性については,学説においても無効説があり,著作者が著作権譲渡時には知り得ない未知の改変について,予め包括的に権利の不行使を合意することは人格権の特性に照らせば良俗に反し無効である(斉藤博氏など),という考え方も少なくはなく,また,著作者人格権の不行使特約の有効性が判例上有効であると確立しているか,といえばまた微妙な状況であると言わざるをえません。
しかし現在,著作権譲渡契約を締結するに際し,著作者人格権の不行使特約を挿入しておくことは基本的なリスクヘッジとして行っておくべきであると言えましょう。
( 画像 : 筆者がベルギー,アントワープ駅で撮影しました。)
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