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プロ野球ドラフト会議と職業選択の自由,及び独占禁止法との関係について

早いもので今年も,プロ野球はシーズン公式戦を終え,日本シリーズを残すのみとなり,ドラフト会議を間近に控える時期となりました。頭に「バカ」がつくほどの熱狂的プロ野球ファン(西武ライオンズファン)の私としましては,本塁打王,打点王,シーズン最多安打日本記録保持者を擁しながら,球団記録の13連敗をし,またもやBクラスに終わった我がチームの情けなさに泣けてくる今季であり,とにかくドラフト会議で優秀な選手を獲得して来季の優勝を目指したいのが本音なのではございますが,少し頭を冷やして,少し法的な話を綴ってみたいと思います20150824KONA(なお写真は,今季8月24日対ロッテ戦でルーキー初完封勝利を収めたときの高橋光成君を私自身が撮影したものです。私は幸運にも現地観戦しておりまして,カメラに収めることができました。)

1)ドラフト会議と,憲法が保障する「職業選択の自由」との関係

ドラフト会議は簡単に申せば,毎年10月のこの時期に一般社団法人日本野球機構(以下,NPBといいます)が一斉に行う,各新人選手との入団交渉権を ” NPB所属の1プロ野球球団のみ” に絞り振り分ける手続です。
当該新人選手が,自分の希望選択によることなく一方的に決められた一球団としか入団交渉ができないことが(ドラフト外ではプロ野球選手にはなれない),憲法第22条に違反するのではないか,という論調が毎年のように起こります。

ここでまず法原則の基本に立ち戻りますが,憲法の保障する国民の人権,権利は,国家(公権力)との関係で定めたものであり,私人間(公権力に該当しない個人間,個人と法人,法人間など)の権利調整に直接的に適用されるものではありません。ただし,憲法の定める人権保障は,私人による権利侵害の場面でも何らかの形で反映・適用されるべきである,という見地から,現在の判例等では,問題となっている一私人(法人含む)が他者に行っている権利制限行為が,公序良俗に反し無効である(私人間の権利調整を図っている民法の第90条)と言えるかどうかの判断で憲法の趣旨を取り込む,という考え方(間接的適用説,といいます)が採用されています。

さてそこで,前述のドラフト会議制度が,新人選手の職業選択の自由を制限し,「公序良俗に反し無効である」とまで言えるか,が問題となります。この点確かに,新人選手が自分が希望選択したわけではない一球団との交渉に絞られる点は,客観的に見て職業選択の自由を一定程度制限していると言えるでしょう。但し,職業選択の自由のような経済的自由は,信仰の自由,表現の自由といった精神的自由と比べて一定の合理的理由がある場合にはより広い制限を受けうることを甘受しなければならないというのが現在の法解釈の通説です。そしてドラフト会議手続が,現状では過当な自由競争による契約金高騰により特定の資金的体力等がある球団に戦力が集中し,球界自体の戦力不均衡によるエンターテイメントとしての衰退を防ぐ,という目的で行われており,その目的自体に一定の理由があってその為の制限措置としても「著しく不合理であることが明白」とは言えない状態だと評価できるかと考えられ,職業選択の自由には反しないと思います。

2) ドラフト会議と,「独占禁止法」との関係について

スポーツ関係法の分野では,実は職業選択の自由より,独占禁止法との関係が大きな問題として取り上げられています。
実はアメリカンフットボール(NFL)のドラフト制につき,アメリカの裁判所では独占禁止法であるシャーマン法違反を認めた事件も散見されるようです(James Smith vs Pro Football Inc. etc cf: クリーブランド州立大Law Journalなど)。
しかし現状で,日本国内でNPBのドラフト制度が独禁法の判決審決対象となった事案はありません(そもそも,我が国に米国のような一個人が独禁法を根拠に損害賠償請求等を行うという土壌がまだ十分には育っていないことが背景にあるかと思います)。

日本の独占禁止法(米国のシャーマン法を導入しています)は,次のように定めています。
第3条 事業者は,私的独占又は不当な権利制限をしてはならない。
第2条6項 この法律において「不当な権利制限」とは,事業者が,契約,協定その他何らの名義をもってするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

そこで,ドラフト制度に立ち返り考察してみるに,

・ 「相互にその事業活動を拘束」=判例通説では,「 各事業者の従業者等が各共同行為をし,これに従って事業活動をすることがそれぞれ所属する事業者に有利と考え,その内容の実施に向けて努力する意思を持ち,かつ,他の事業者においてもこれに従うものと考えて共同行為を行うこと」,と解されていますが,事業者である各プロ野球球団全12球団が,ドラフト制度によってのみでしか新人選手が獲得できないことで合意し相互を拘束し,ドラフト制度の実施を継続しているという点で客観的に該当しそうです。

・ 「競争を実質的に制限」=判例・通説では,「競争自体が減少して特定の事業者又は事業者集団がその意思である程度,価格,品質,数量,その他拡販の条件を左右することにより市場を支配できることができる形態が表れているか,又は少なくとも表れようとするに至っている状態」,と解されていますが,現在の日本のプロ野球界は,(四国IL等の動きはありますが)人気,特に収入面において実質的にプロ職業集団といえるのはNPB選手のみであり,その採用はNPB12球団が市場支配をしているという点で客観的に該当しそうです。

となると,ドラフト制度が独占禁止法に抵触しないとされるには,ドラフト制度はNPB12球団の戦力均衡を目的とし,もし仮に戦力均衡が崩れることになれば,そもそもNPBというエンターテイメントコンテンツとしての支持を失い衰退し,プロスポーツや興業全般のなかでのプロ野球というコンテンツが消失することになり(=NPB球団は,社会に多数あるエンターテイメントから構成される市場全般の一角であるにすぎないプロ野球というエンタメを支配するにすぎない),これを防ぐための措置であって競争制限ではなく,公共の利益に反しない,といった違法性阻却の為の反論が成立するかどうかにかかるでしょう。また近年成立成長した日本プロ野球選手会が選手の契約条件を改善する役割を果たしていること,FA権取得制度の確立なども違法性阻却の方向に加味する要素となりそうです。

本来,趣味・娯楽の分野であるプロ野球談義も,時には法律論で喧々諤々討論してみるのも結構面白いかもしれません。

#プロ野球 #ドラフト会議 #職業選択の自由 #独占禁止法

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