
11.242015
遺言書の文面全体の左上から右下にかけて、赤色のボールペンで1本の斜線が引かれていた場合の、遺言書の効力について、平成27年11月20日、最高裁第二小法廷が初判断を下しました。
なおこの斜線については、原審(下級審)において、遺言作成者(遺言者)が故意に引いたものである、との事実認定がされており(争点にならなかったと報じられています)、最高裁もこの事実認定に基づき判断をしております。
以下、最高裁の判決全文です。
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まず、本件の前提として、民法が遺言の効力につきどのように定めているかを触れておきます。
《 遺言書の加除変更の効力 》
自筆証書中に加筆・削除・その他の変更を加えた場合、遺言者はその場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を認められない。(968条2項)
《 遺言の破棄・撤回 》
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。(1024条前段)
そして原審(高裁)は、遺言書の加除変更を有効にするための形式要件、所定要式を民法が定めていることを重視し、
本件斜線が引かれた後も本件遺言書の元の文字が判読できる状態である以上、本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は、民法1024条前段により遺言を撤回したものとみなされる「故意に遺言書を破棄したとき」には該当しない
として、本件遺言書には(赤字で斜線が引かれていても)元の文字のままの内容どおりの遺言効力がある、と判断しました。
これに対し今回最高裁は、「赤色ボールペンで文面全体に斜線を引く行為の有する一般的な意味」に照らして、「遺言者がその遺言書の全体を不要なものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れと見るのが相当」と評価し、(民法が所定の要式を定める)遺言書の一部加除の場合と同様に判断すべきではなく、「故意に遺言書を破棄したとき」に該当する、と判断したのです。
最高裁の、遺言者の意思をできる限り尊重しようとする姿勢が表れていますね。
ただ反面、今後は、斜線を本当に遺言者が引いたものかどうか争いになるような事案も出てくる可能性があり(文字と違い、斜線の筆跡鑑定は困難だと思われます)、注視していく必要がありそうです。
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