
8.162011
(Facebookに2011,5,29に投稿した記事を転載したものです。)
弁護士会の会派で間もなく出版予定の「会社法務Q&A」に収録される予定の、職務発明と職務著作についての会社の対応につきましての原稿を、以下に紹介させて頂きました。平易な文章で記載しておりますので、分かりやすいかと存じます。宜しくお願い申し上げます!
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職務発明と職務著作
Q 会社の従業者が新しい技術を発明したり、楽曲やイラスト等を創作した場合、会社がその新しい発明技術を利用したり、楽曲やイラスト等を使用するにあたって何か特別な対応は必要となりますか。
A 従業者が新しい技術を発明した場合、特許を受ける権利は原始的に当該従業者に帰属する。
ただし、その発明が職務発明にあたる場合には、会社は職務発明規程等を予め定めておくことによって、その発明にかかる特許を受ける権利または特許権を従業員から譲り受けることができることができる。そのため、職務発明の扱いに関する取決めをきちんと定めておくことが肝要となる。
また従業者が楽曲やイラスト等を創作した場合、原則としてその従業者が著作者となり、その楽曲やイラストに関する著作権および著作者人格権を取得することになるが、その作曲やイラストの作成が職務著作に当たる場合には、会社が原始的な著作者となり、その楽曲やイラストに関する著作権と著作者人格権の双方を原始的に取得することとなる。
解説 1 従業者による発明
(1) 職務発明
会社の従業者による発明は、職務発明、自由発明、及びその中間の業務発明の三分類に分けられる。すなわち、①従業者の行った発明であること、②従業者の現在または過去の職務に属する発明であること、③使用者(会社)の業務範囲に属する発明であること、の①乃至③の全てを充足する場合は職務発明(特許法35条)、①と③を充たす場合は業務発明、①のみを充たす場合には自由発明となる。
特許法においては、特許を受ける権利は原始的に発明者に帰属する発明者主義が原則であり、これは、発明者が従業員であっても変わりはない。ただし、従業員の発明が「職務発明」に該当する場合には、会社は従業者との間で特許権を受ける権利、あるいは特許権を会社に承継させる旨、予め取決めをすることができます(予約承継・特許法35条2項反対解釈)。したがって会社は、労働契約や就業規則、あるいは職務発明規程等を別途設け、予め職務発明の予約承継につき定めておくことが肝要となる。例えば、「発明をした従業員は、速やかにその発明の内容を自己の所属する長に届け出なければならない。」等の届出制の条項を定めたうえで、「職務発明は会社がその権利を承継する。ただし、会社がその権利を承継する必要がないと認めたときは、この限りでない。」等と定めておくことが考えられる。
もし、従業者が職務発明を行ったが、会社に予約承継規程が無く、従業者自身、あるいは従業者以外の第三者が特許権を取得してしまった場合には、会社は無償でその特許権に関する実施の範囲に制限のない法定通常実施権を取得することになる(特許法35条1項)。この場合、会社は、その特許発明を実施することができますが、特許発明の実施を独占するものではなく、他人がその発明を無断実施した場合であっても、会社自らが差止請求、損害賠償請求を行うことはできないという点で、会社の利益を守るには不十分である。
なお、従業者が職務発明についての特許を受ける権利を使用者に承継させる等をした場合には、従業者は、会社から「相当の対価」の支払いを受ける権利を得る(特許法35条3項)。「相当の対価」の額の算定については、裁判所は、会社に対し「相当の対価」として200億円を支払うよう命じたことがあります(この裁判の控訴審では、会社が発明者に対して約8億5000万円を支払うという内容で和解が成立したようです)。このほか多くの事件において裁判所で争われたところであるが、まずは会社と従業者との間の契約、就業規則、職務発明規程等で定められた額が基準となります(特許法35条4項)。しかし、このような定めが無い場合や、あるいは、あらかじめ定められた額が不合理と認められる場合には、その発明により会社等が受けるべき利益の額、その発明に関連して会社等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めることとなる(特許法35条5項)。このように「相当の対価」については、あらかじめ定めておいてもその額が絶対的なものとして通用するわけではありませんが、紛争がむやみに裁判所に持ち込まれることを防止するためにも、職務発明規程等においてその算定方法等を定めておくべきです。なお、会社にとって、発明当初に「相当の対価」(補償金等)を算出するのは困難であり、一般的には、① 特許出願時の補償金、② 特許が登録となった時の補償金、③ 実績補償金、の段階を踏んで支払う会社が多いようである。
(2)業務発明、自由発明
会社の業務範囲に属するものの、職務発明ではない業務発明、そもそも会社の業務範囲に属さない自由発明については、会社による予約承継は無効であり(35条2項)、また、法定通常実施権も認められていない。ただし業務発明については会社が関心を寄せるのが通例である(また、職務発明との判断が容易でない事例も多い)。そこで、会社側としては、就業規則や発明規程などで、従業者に対して発明の届出義務を課し、発明した従業者がその発明に関して他者と交渉する前に優先して自社と交渉すべきことを定めた就業規則、発明規程等を作っている会社も少なくないようである。
解説2 従業者による作曲・イラストの作成等
従業者が作曲を行い、またはイラストを作成するなどした場合、その著作権は誰に帰属するのかが問題となる。著作権法においては、著作権は著作者に帰属するのが原則であるが(著作権法17条)、会社等の内部で職務上作成された著作物については、社会的に評価や信頼を得、またその内容について責任を有するのは会社であると一般的に考えられることから、会社が著作者となり、著作者人格権も会社に帰属すると著作権法15条は定めている(いわゆる職務著作、あるいは法人著作)。
そして、職務著作と認められるためには、以下の4要件、すなわち、① 会社の発意に基づくものであること、② 会社の業務に従事する者が職務上作成するものであること、③ 会社が自己の名義で公表するものであること、④ 契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと、を充たす必要がある。
したがって、前述の4要件を充たす場合には職務著作となり、特許権の職務発明とは異なり、就業規則やその他規則において予約承継を定めておく必要はないのである。
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