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【特許権】従業員の職務発明・業務発明・自由発明に対し、会社が行っておくべきリスクヘッジについて

(Facebookに2011,5,4に投稿したコラムを転載したものです。)

会社の従業者が新しい技術を発明した場合、会社がその新しい発明技術を利用するにあたって何か特別な対応は必要となるのでしょうか。

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(結論) 

従業者が新しい技術を発明した場合、特許を受ける権利は原始的に当該従業者に帰属します。ただし、その発明が職務発明にあたる場合には、会社は職務発明規程等を予め定めておくことによって特許を受ける権利を従業員から会社が承継を受けることができるため、この取決めが肝要となります。

 (従業者の発明について)

1 従業者による発明

(1) 職務発明

会社の従業者による発明は、職務発明、自由発明、及びその中間の業務発明の三分類に分けられます。

すなわち、

①従業者の行った発明であること、
②従業者の現在または過去の職務に属する発明であること、
③使用者(会社)の業務範囲に属する発明であること

の①乃至③の全てを充足する場合は「職務発明」(特許法35条)、①と③を充たす場合は「業務発明」、①のみを充たす場合には「自由発明」となります。

特許法においては、特許を受ける権利は原始的に発明者に帰属する発明者主義が原則であり、発明者が従業員であっても変わりはありません。

ただし、従業員の発明が「職務発明」に該当する場合には、会社は従業者との間で特許権を受ける権利、あるいは特許権を承継させる権利等につき予め事前に取決めをすることができ、(予約承継・特許法35条2項反対解釈)。これにより、会社は従業者の発明につき会社が特許権を受けることができるようになります。したがって会社は、労働契約や就業規則、あるいは職務発明規程等を別途設け、予め職務発明の予約承継につき定めておくことが肝要となります。例えば、「発明をした従業員は、速やかにその発明の内容を自己の所属する長に届け出なければならない。」等の届出制の条項を定めたうえで、「職務発明は会社がその権利を承継する。ただし、会社がその権利を承継する必要がないと認めたときは、この限りでない。」等の条項などがこれに当たります。

もし、従業者が職務発明を行ったが、会社に予約承継規程が無く、従業者自身、あるいは従業者から特許を受ける権利を譲り受けた第三者が特許を取得してしまった場合には、会社は無償で実施の範囲に制限のない法定通常実施権を取得することになります(特許法35条1項)。ただし、この法定通常実施権は特許発明の実施を独占するものではなく、また他人が当該発明を実施した場合であっても、会社自らが差止請求、損害賠償請求を行うことはできないという点で、会社の利益を守るには不十分になります。

なお、従業者が職務発明についての特許を受ける権利を使用者に承継させる等をした場合には、従業者は会社より「相当の対価」の支払いを受ける権利を得ることになります(特許法35条3項)。

「相当の対価」の額の算定
については、光ピックアップ事件、青色LED事件ほか多くの事件において裁判所で争われたところでありまるが、まずは会社と従業者との間の就業規則、職務発明規程等での定め、あるいは当事者間の協議の結果により定められた額となります(特許法35条4項)。

しかしこのような定めが無い場合や協議の方法、定められた額が不合理と認められる場合には、その発明により会社等が受けるべき利益の額、その発明に関連して会社等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めることとなります(特許法35条5項)。ただし裁判所の自由心証によりある程度概括的な算定とならざるを得ません。

このように「相当の対価」についても職務発明規程等において概略を定めておくことが手続上有効になります。また、会社にとって、発明当初に「相当の対価」(補償金等)を算出するのは困難であり、一般的には、① 特許出願時の補償金、② 特許が登録となった時の補償金、③ 実績補償金、の段階を踏んで支払う会社が多いです。

(2)業務発明、自由発明

会社の業務範囲に属するものの、職務発明ではない業務発明、そもそも会社の業務範囲に属さない自由発明については、会社による予約承継は無効であり(35条2項)、会社に法定通常実施権は認められていません。ただし業務発明については会社が関心を寄せるのが通例であり(また、職務発明との判断が容易でない事例も多い)、会社側としては従業者に対して発明の届出義務を課し、発明した従業者が他者と交渉する前に優先して自社と交渉すべきことを定めた就業規則、発明規程等を作っている会社も少なくありません

ご参考になれば幸いです♪

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