
8.202011
(Facebookに2011,2,28に投稿したコラムを転載したものです。)
今回は、採用内定の取り消しについてコラムを書いてみたいと思います。
採用内定の取消は、当該学生にとって、将来にかかわる極めて深刻な問題です。
では、そもそも採用内定(一般的に、採用内定通知の交付、誓約書の提出等)とは、法的にどういう意味合いを持っているのでしょうか。単なる、将来(卒業した時など)の労働契約の締結の「予約」に過ぎないのでしょうか。
この点については、色々な学説の対立もかつてありましたが、現在は、「始期条件付き」(新卒採用ならば翌年の4月)、かつ、会社側にとって「解約権留保付き」の労働契約の成立であると考えられています。
それでは、会社は何時でも「解約権」を行使できるのか、この点につき最高裁は、「大日本印刷事件」(最判S54,7,20)で、
会社にとって学生の採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、「これを理由として採用内定を取り消すことが・・・・客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるもの」に限られる、
と解約権行使を制限しています。
典型的な例としてよく挙げられるのは、一定程度の刑事罰・刑事処分を受けていた事実が判明した場合であったり、健康を著しく害してしまった場合、単位不足で卒業できなかった場合などです。
また、昨今問題となっている、会社側の経営上の理由による内定取消については、東京地裁は、「インフォミックス事件」(地位保全仮処分申立事件・決定H9,10,31 ※学生の例ではありません)で、
「企業が経営悪化を理由としで採用内定を取消す場合は、整理解雇の有効性判断の4要素(注:①人員削減を行う経営上の必要性の存在、②会社に解雇回避の十分な努力の存在、③解雇対象者の選定が客観的・合理的な基準でなされたこと、④労働者に対して事前に説明し、納得を得るよう誠実に協議を行ったこと)を総合的に考慮して、さらに解約留保権の趣旨・目的に照らして客観的に合理的と認められ、かつ社会通念上相当と是認する ことができるかどうかを判断すべき」
としています。
したがって、これらの条件を満たさない内定取消は無効となる可能性が強いので、会社側は注意が必要ですし、学生・労働者側は例えば裁判所で法的に内定取消無効を争う余地(地位保全の仮処分、損害賠償請求など)が出てくることになります。
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