
9.232011
こんにちは。週末、いかがお過ごしでしょうか。
さ て、既に報道されておりますとおり、アメリカ航空宇宙局(NASA)は、運用を終えた人工衛星「UARS」が早ければ24日未明にも大気圏に突入し、破片 の一部が燃え尽きずに地球上に落下して、3200分の1の確率で、破片が地球上の誰かにぶつかる可能性があると発表しております。
では、もし破片が、地球上の誰かにぶつかった場合、誰がどのような責任を負うのでしょうか。
さらには、被害者はどのように賠償責任請求をしていくのでしょうか。
現在、宇宙に関係する条約等として、主に以下のものがございます。(宇宙損害責任条約は、宇宙条約第6条・7条の規定を具体化したものとなります。)
・ 宇宙条約 ; 宇宙活動自由の原則、宇宙空間領有禁止原則、宇宙平和利用原則などを定める。
・ 宇宙損害責任条約 ; 宇宙物体が、地表での損害又は飛行中の航空機に与えた損害について無過失責任などを定める。
・ 宇宙物体登録条約 ; 宇宙物体の登録・識別手続きをなどを定める。
・ 月協定 ; 月の平和的利用、月における科学的研究の自由、所有権主張の禁止、資源開発の禁止などを定める。
今回はこのうち、「宇宙損害責任条約」(正式名称; 宇宙物体により引き起こされる損害についての国際責任に関する条約 ・第26会期国際連合総会決議2277号、1971年11月29日採択、1972年9月1日発効)
が問題となります。
具体的には、
第2条 打上げ国は、自国の宇宙物体が地表において引き起こした損害、又は飛行中の航空機に与えた損害につき無過失責任を負う。
が適用されることになります。
今回の場合には、打上げ国のアメリカ合衆国が、賠償責任を負うことになります。
では実際、日本国内にいる日本人が損害を被った場合、アメリカ合衆国に対して、どのように賠償責任請求をすることになるのでしょうか。
この点、同条約は、
第8条 1. 損害を被った国又は自国の自然人若しくは法人が損害を被った国は、当該損害の賠償につき、打上げ国に対し請求を行うことができる。
第9条 損害の賠償についての請求は、外交上の経路を通じて打上げ国に対し行われる。当該打上げ国との間に外交関係のない国は、当該請求を当該打上げ国に 提出すること又は他の方法によりこの条約に基づく自国の利益を代表することを他の国に要請することができる。当該打ち上げ国との間に外交関係がない国は、 また、国際連合事務総長を通じて自国の請求を提出することができる(請求国及び打上げ国の双方が国際連合の加盟国である場合に限る。)。
第10条 1. 損害賠償請求は、損害発生の日又は損害につき責任を有する打上げ国を確認した日の後1年以内に限り、打上げ国に対して行うことができる。
と規定しております。
要するに、当該日本人個人がアメリカ合衆国に賠償責任請求をするのではなく、日本国が、アメリが合衆国に対し、外交上の経路を通じて賠償責任請求をすることになります。
また、損害賠償請求ができる期間も、損害発生から1年以内に行うこととなります。
さらに、損害額については、
第12条 打上げ国が損害につきこの条約に基づいて支払うべき賠償額は、請求に係わる自然人、法人、国又は国際的な政府間機関につき、当該損害が生じなかったとしたならば存在したであろう状態に回復させる補償が行われるように、国際法並びに正義及び衡平の原則に従って決定される。
と定められております。
日本国内における、一般私人間での損害賠償責任請求と比べて変容しており、加盟国の誠実な条約遵守が前提となることが、国際法たるゆえんとなりますでしょうか。
ご参考になれば幸いです。
(参考)
・ 原典宇宙法
http://www.jaxa.jp/library/space_law/index.html
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