
1.32012
こんばんは。お正月三が日の最終日夜、いかがお過ごしでしょうか。
さて、交通事故損害賠償分野では、交通事故加害者の被害者に対する加害行為と、被害者の身体的素因等(特徴)とが共にあいまって原因になって、損害が発生・拡大した場合に、被害者の身体的素因(特徴)等の存在を考慮(斟酌)して損害賠償額を減額するかどうか、が争いになることがあります(「素因減額」と言います)。
背景には、このような場合には、交通事故加害者に損害の全額について損害賠償責任を負わせることは、公平に失するのではないか、損害賠償責任の範囲を制限すべきではないか、という考え方があります。
このような場面での有名な最高裁判決として、いわゆる「首なが事件」(平成8年10月29日)があります。
具体的事故内容や治療経過等については省略しますが、簡略に事案を説明申し上げますと、
【 事案概要 】
被害者女性が徐行運転していた車両の後方から、加害者車両が追突し、被害者女性は運転席のシートに頭部を強く打ちつけてしまい、その直後から首筋に痺れや痛みを感じ、翌日整形外科医院において頸椎捻挫と診断されました。
被害者女性は、平均的体格に比して首が長く、多少の頸椎の不安定症があるという身体的特徴を持っていました。
被害者女性は、本件交通事故によって、胸郭出口症候群、バレリュー症候群などが発症したと訴えて裁判で損害賠償請求をしましたが、バレリュー症候群については、少なくとも被害者女性の前述の身体的特徴が症状を悪化・拡大させたという点が認められました。
【 判旨抜粋 】
「被害者が平均的な体格ないし通常の体格と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできない」
「人の体格ないし体質は、すべての人が均一同質なものということはできないものであり、極端な肥満など通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴を有する者が、転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められる場合は格別、その程度に至らない身体的特徴は、個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されているものというべき」
【 簡単な整理 】
◆ 被害者に存在している、平均的体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴が
→ 疾患に当たる場合、あるいは
特段の事情(極端な肥満など・・日常生活において通常人に比べてより慎重な行
動が求められる場合など)がある場合。
⇒ 損害賠償額を相当額減額する。
→ 特段の事情がない場合
⇒ 損害賠償額の減額は行わない。
ちょっと長くなってしまいましたが、ご参考になれば幸いです♪
本年も宜しくお願い申し上げますm(_ _)m。
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