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【知財】 最高裁、いわゆるピンク・レディー訴訟でパブリシティー権は認めるが侵害否定

皆様、週末の日曜日朝、いかがお過ごしでしょうか。(と申しつつ、この記事を書いているのは土曜日深夜なのですが(^^ゞ)

各種報道等が既になされましたとおり、今月(平成24年2月)2日、最高裁判所第一小法廷(桜井龍子裁判長)において、いわゆる「ピンクレディー訴訟」に判決が出されました。

事件の概要は、ピンク・レディーのお二人が、週刊誌「女性自身」が「UFO」などの代表曲5曲の振り付けをダイエット法として紹介したことに対し、昔のステージ写真などを無断掲載され、パブリシティー権を侵害されたとして、発行元の光文社に合計約370万円の損害賠償を求めたものです。
⇒ 結果は、上告人側(ピンク・レディー)の上告棄却(敗訴)。

しかしこの裁判は、パブリシティー権(=芸能人やスポーツ選手などの著名人に備わっている、顧客吸引力などの経済的な価値を保護する権利。人格権=個人の人格的利益を保護するための権利、に基づく権利と解されている)について具体的な法律規定が無いことから、パブリシティー権の具体的権利の内容や、同権利により保護される範囲について、最高裁がどのような判断を下すかについて注目が集まっておりました。

パブリシティー権は、1970年台頃から、裁判所においても権利として認められるようになり、特に「おにゃん子クラブ事件控訴審判決」(東京高判平成3年9月26日判時1400号3頁)で、パブリシティー権に基づく差止請求が認容されるなどを経て、法的権利として認識・確立されるようになって来ておりました。

本件最高裁判決は、以下のとおりの判断をしております。

◆ パブリシティー権の具体的内容について (判旨略)

人の肖像等は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される。
そして,肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(=パブリシティー権)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる・・・

◆ パブリシティー権は、どのような場合に侵害されたと判断されるのか。

① 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,
② 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,
③ 肖像等を商品等の広告として使用するなど,
- 専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合

◆ 本件(ピンク・レディーの肖像権使用)については、パブリシティー権の侵害はあるのか。

 本件「女性自身」の記事の内容は、

・ ピンク・レディーそのものを紹介するものではなく,前年秋頃に流行していたピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法につき,その効果を見出しに掲げ,イラストと文字によって,これを解説するとともに,子供の頃にピンク・レディーの曲の振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するというもの

・ 記事に使用された本件各写真は,200頁の本件雑誌全体の3頁の中で使用されたにすぎない上,いずれも白黒写真であって,その大きさも,縦2.8㎝,横3.6㎝ないし縦8㎝,横10㎝程度のものであった

⇒ 本件各(ピンク・レディーの)写真は,ピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法を解説し,これに付随して子供の頃に上記振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するに当たって,読者の記憶を喚起するなど,本件記事の内容を補足する目的で使用されたものというべき。

⇒(結論) 光文社が本件各写真をピンク・レディーに無断で「女性自身」に掲載する行為は,専らピンク・レディーらの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず,不法行為法上違法であるとはいえない。

◆ 上記のような、一部限定的な解釈・判示を行ったのは・・・。

⇒ 判決はパブリシティー権が権利侵害となる場合・条件を上記のとおり呈示したうえで、
「 
肖像等に顧客吸引力を有する者(著名人)は,社会の耳目を集めるなどして,その肖像等を時事報道,論説,創作物等に使用されることもあるのであって,その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もある」 と、肖像権使用者側の「表現の自由」にも一定の配慮をしたものといえる。

この裁判は、5名の裁判官全員の一致で判決が下されました。
この最高裁判決は、今後、マスコミやメディア側が、著名人の肖像権の使用を行ったり、表現する際にあたり、一定の指針となるのではないかと思われます。

なお、裁判官の1人、金築誠志氏は、補足意見として、

「 もっとも,顧客吸引力を有する著名人は,パブリシティ権が問題になることが多い芸能人やスポーツ選手に対する娯楽的な関心をも含め,様々な意味において社会の正当な関心の対象となり得る存在であって,その人物像,活動状況等の紹介,報道,論評等を不当に制約するようなことがあってはならない。」
「そして,ほとんどの報道,出版,放送等は商業活動として行われており,そうした活動の一環として著名人の肖像等を掲載等した場合には,それが顧客吸引の効果を持つことは十分あり得る。したがって,肖像等の商業的利用一般をパブリシティ権の侵害とすることは適当でなく,侵害を構成する範囲は,できるだけ明確に限定されなければならないと考える。」

と述べており、本件判決にさらに踏み込んで、報道、出版、報道等のメディア側の「表現の自由」を重視し、パブリシティー権の侵害の範囲をできるだけ明らかに限定されるべきとの主張をされております。

今後のパブリシティー権のあり方につき、重要なガイドラインとなる判例であると言え、また今後多く発表されるであろう、知財分野の学者の方々の論評も待たれるところです。

(最高裁第一小法廷、平成21(受)2056損害賠償請求事件、判決全文)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120202111145.pdf

※ 写真 = 「フリー素材屋 hoshino」 さまご提供。

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